ハネムーンで訪れたモルディブ。「1島1リゾート」と呼ばれる、世界でも類を見ないスタイルを確立するモルディブでは、どの島(=ホテル)を選ぶかで旅の全てが決まると言っても過言ではない。
私たちが宿泊した「ギリランカンフシ(Gili Lankanfushi)」は、過去にトリップアドバイザーの「旅行者が選ぶホテルランキング」で世界・全89万ホテルの中のトップを獲得したことのある、業界では有名なリゾートだ。
そんなギリランカンフシで、私たち夫婦が五感で浴びたトップ・エクスペリエンスが、この「ハネムーン旅行記」には詰まっている。
ホテルモーニングの概念を覆す、ギリ流ブレックファスト
2日目の朝。起き抜けに目に飛び込んできた景色。ここへきて、ようやく完全にモルディブに来た実感が湧いてハッとした。
顔を洗って日焼け止めを塗り、Tシャツとハーフパンツのラフな格好に着替え、キャップをかぶってレストランへ向かう。朝食はビーチサイドのメインダイニング「Kashiveli(カシヴェリ)」で提供されている。
ビュッフェのブースが2つ。吹き抜けのスペースには、ホットフードやベーカリー、シェフが果物を目の前でカットしてくれるフルーツスタンド、オリジナルのアボカドペーストを作ってくれるアボカドスタンドなどが並ぶ。
ここまではラグジュアリーホテルに期待している範囲のビュッフェなのだが、ギリランカンフシには温度管理された部屋もある。いわゆる「コンチネンタル・ブレックファースト」と呼ばれる、火を通さないタイプの朝食メニューが所狭しと並ぶブースだ。
サラダ、ハード系のパン、刺身や寿司、ハム、サラミ、チーズ。5種類のミルク、7種類のヨーグルト、10種類超のジャム、10種類超のドライフルーツやナッツ、12種類の蜂蜜に直接削るタイプの蜂蜜。
入り口正面には10種類ほどの手作りチョコレートまで、まるで洋菓子店のディスプレイかのように陳列されている。
寿司レストランを併設していることもあり、鮮魚もたくさん仕入れているのだろう。刺身に巻き寿司、日によっては鰻も並んでいて驚いた。もちろん山葵もある。
さらに、テーブルではメニューブックからもオーダー可能。例えば、卵料理やサンドイッチ、パンケーキ、ヌードルスープ、サラダ、ワッフル、ブリオッシュなど、オーダーしてから作るタイプのメニューが並んでいる。なんと、ドリンク含め12ページ分だ。
たった数日間で、これらのメニューを攻略することは不可能だろう。圧巻のラインナップに朝から悩まされる。なんて幸せな悩みなのだろうか。ギリランカンフシの朝食は、これまで私の中に存在していたホテルモーニングの概念を覆した。
あれだけ珍しいメニューが並ぶ中で選んだのは、結局いつも旅先で食べるスタメン達。ハム、サラミ、ソーセージ、チーズ、クロワッサン。メニューブックからはオムレツとスムージー、アイスカフェラテ。初日なので、まずはここから始めようと思う。
きっと食材が良いのだろう。ハム1枚とっても美味しく、全て外れなしの納得の味だ。噂に聞いていた通り、ギリランカンフシの食事はレベルが高そうだ。
浜辺を散歩しながら、ヴィラに戻った。
エメラルドグリーンを独り占め
ヴィラから目の前の海に飛び込むこともできるが、魚の集まるシュノーケリングスポットまで送迎してもらうことも可能だ。せっかくの晴天だったので、マリンスポーツを楽しむことにした。
夢中で泳いだ。こんなに透き通った美しい海なのに、周りには誰もいなかった。これまで訪れた綺麗な海には、自分も含めてたくさんの観光客がいたのに、ここではあたり一面を独占だ。
途中、運よく巡回中のホテルスタッフの船に乗せてもらい、海亀ウォッチングも楽しめた。
一度も時間を気にすることなく無我夢中で海に浮いていると、ほんのり全身が火照るほどには日焼けしていたので、そろそろ引き返すことにした。小島に置いてある電話から連絡すると、再び送迎船が来てくれる。
部屋からこんな景色が見えるのだから、戻ることも惜しくない。ここでもずっと、海の上に浮いている。
サンセットクルーズで、大自然とラグジュアリーの共存を感じる
この日は私の誕生日。特別な時間がほしくて、プライベート・サンセットクルーズを予約した。
クルーズには白のワンピースを着ると決めていた。リゾートで浮かない程度にドレスアップをして、モルディブの伝統的なボートに乗り込む。早速シャンパンとカナッペが出てきた。
ゆっくりと進み出すボート。あたたかい風と、穏やかな波を感じながら、リゾートの海を行ったり来たり。太陽が水平線に近づいてくるのを待つ。
ポチャン、ポチャン、とボートに跳ね返る波の音が響くほどには静寂だったが、遠くの船やリゾートに人の動きが見えるので、決して寂しい雰囲気ではない。閑麗だ。
そうか、モルディブの魅力の一つは、1島1リゾートによって確立されるこのスタイルなのか。一歩海に出ると、誰ともすれ違わず自然と一体化する感覚を味わえるのに、手に届く距離に素晴らしいホームがある。まさに大自然とラグジュアリーの共存だ。
太陽が沈みきる前にクルーズが終わったので、慌てて「Over Water Bar」に走った。
スタッフに声をかけて、沈む瞬間だけここから眺めさせてもらった。いつもより大きく、近く感じる太陽。
バースデーディナーは人生初のチュニジア料理
カチャカチャと鳴るカトラリーの音がビーチサイドに響く。ディナーの時間がやってきた。
朝食会場としても使われているメインダイニング「Kashiveli(カシヴェリ)」を予約した。日替わりのセットメニューは、チュニジア料理のコースらしい。人生初のチュニジア料理に挑戦だ。
まず運ばれてきたアペタイザーは、「フムス」と「スパイシーキャロットフムス」に、中東レバンテ地方のサラダ「タッブーレ」、キッシュのような「タジン・エル・ベイ」。チュニジア風ディップの「メシュイヤ」、豆に香辛料を混ぜて揚げた「ファラフェル」、焼きなすの冷製ディップ「ムタバル」に「チーズサラダ」。
フムスくらいしか経験したことのない中で、初めて目にするメニューの数々。異国の香辛料が苦手なので若干の不安を抱えながらチャレンジしたが、癖がなくとても食べやすい。
地中海に面するチュニジアは、シーフードやオリーブオイル、パスタ、お米、パンなどの炭水化物も主食らしい。地理的にはアフリカ大陸の国だが、地中海料理と中東料理の融合のようなイメージだろうか。
メイン料理は魚とラム肉を試した。ラムこそ特有の癖は多少感じられるが、総じてチュニジア料理は日本人の口にも合い、抵抗なく楽しめるのだと知ることができた。もちろん、ギリランカンフシの食事レベルが高いからこそ成せる技なのかもしれないが。
デザートを食べているところで、バースデーケーキが運ばれてきた。4人のホテルスタッフがモルディブ流のバースデーソングを歌って盛り上げてくれたのだが、まるで親しい友人に祝われている気分だった。フレンドリーなスタッフと顔を合わせて会話を重ねるうちに、少しずつ、この場に溶け込んできたようだ。
部屋に戻ると、ターンダウンサービスと共にバースデーデコレーションが仕上がっていた。ピクトグラムのようなイラストが可愛らしくてほっこり。ロウソクの火が花びらだなんて、粋だ。一生懸命並べてくれたスタッフの姿を思い浮かべずにはいられない。
「Sleeping under the stars experience」と呼ばれるハネムーナー特典のセットアップも依頼した。2階(屋上)のベッドで星空を眺めながら眠れるように、ベッドメイキングをしてくれる珍しいプログラムだ。
これはどうだろう・・・。「モルディブにまで来て風邪をひいたり、変な虫に刺されてたまるか」という邪悪な気持ちが勝ってしまい、少し横になって引き上げてしまった。念には念を、だ。
やわな私は、冷房の効いた涼しい寝室のほうが落ち着くのだ。Netflixを小一時間観ているうちに、特別な誕生日が終わった。